開示請求で得た実名をSNSで晒され…YouTuberが百田尚樹氏らを提訴、匿名発信の自由が危機に
「開示請求で得た実名をSNSでポイッと公開。これってアリなん?」——そんな疑問が、日本のネット界隈で新たな火種になっている。
YouTuberとして活動する40代会社員の男性が7月21日、評論家の「猫組長」氏と作家で日本保守党代表の百田尚樹氏を相手取り、名誉毀損などを理由に東京地裁へ提訴した。同日に司法記者クラブで会見を開き、自らの口で訴えの内容を明かしている。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon 男性はYouTubeチャンネル「闇のクマさん世界のネットニュース ch」を運営し、「闇クマ」の通称で知られる存在。2024年2月に公開した動画を巡り、猫組長氏が名誉を傷つけられたとしてグーグル相手に発信者情報開示命令を申し立て、男性の氏名を入手。その後、2025年6月には男性に対し損害賠償を求める訴訟を起こした。
問題はここから。猫組長氏は同年6月12日、Xと個人メディア「theLetter」で「『闇クマ』こと(実名)を東京地裁に提訴しました」と実名入りで投稿。百田氏はこれを引用し、「東京地裁は『闇クマ』こと(実名)の違法行為を認定した」と続けた。
しかし男性によると、東京地裁は動画によって猫組長氏の社会的評価が低下したとは認められず、請求を棄却。判決は確定済みだという。
「結果的に3週間、一切の活動を停止するという状況に追い込まれていった」と男性は会見で語る。実際、一連の投稿を受けて勤務先を特定する書き込みが相次ぎ、電話がかかってきたとのこと。ハンドルネームで活動していた身としては、たまったものじゃない。
今回の訴訟の争点は、発信者情報開示で得た情報をSNSで公表することが、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)7条に反するかどうか。同条は開示を受けた情報を「みだりに用いて」発信者の名誉や生活の平穏を害してはならないと定めるが、違反した場合の罰則はない。
男性側は、匿名で情報発信する自由が萎縮すると主張。代理人の弘中惇一郎弁護士も「なぜ匿名の情報発信が必要なのか、あるいは有効なのかを議論して確立していくべきで、この訴訟が一つの有力な材料になる」と指摘する。
一方で男性は、情プラ法の改正で開示手続きが利用しやすくなったこと自体は評価しつつも、こう問題提起する。「罰則規定がないからといって目的外で使うことが許されるのか。これが通ってしまったら、匿名ですらSNSで書きたいことが書けない、言いたいことが言えない状況になる」
総務省の検討会でも、開示手続きで判明した情報がSNSで拡散される二次被害について議論が進んでいる。男性は期待する制度のあり方として「収益の剥奪」を提案。「悪質な暴露をする方ほど儲け目的の方が多い。まずは儲からなくなる仕組みを設けてほしい。当然、僕も対象として」と、自らもインフルエンサーである立場から語った。
開示請求の件数は2024年に15万4484件と増加傾向。誰もが簡単に実名を晒せる時代、匿名でモノを言う自由は守られるのか——この裁判の行方は、ネット社会のルールを大きく変えるかもしれない。
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